HOME = =

「家庭教師」
大学から帰宅していた僕は留美からのコールを賃貸の自室で受けた。

これから起こる留美とユウジくんの行為が気になって。
大学の課題を机に広げたまま手につかず、スマホの画面をノーパソに大きく映し出して眺めていた。

留美は自分のスマホを部屋の真ん中あたりのテーブルの上に置いたようだった。
椅子は無い低めの床置きテーブルの上のスマホスタンドに置いた。

カメラに映った留美の格好は、上は丸首の長袖で下はジャージのようなズボン。ボタンもチャックもない無地で、質素なルームウェアだった。



「まだ何も持ってきてないんだよね」
留美が僕に向かって言った。
引っ越しで、最低限必要なモノを運んだだけなので、机もベッドもまだ買っていないのだと。
画面に映るのはやや肌色っぽい壁と段ボールがいくつかだけ。
窓も、テラスへ出るガラス戸も見えずカーテンも映っていない。

その部屋は?と僕がたずねると留美が答えた。
「そう。この部屋が防音になってる部屋だよ」

大家さんの娘さんが音楽の練習のために改造した部屋だった。

「静かで凄く寝やすいの。扉を閉めると外の音が全然聞こえないんだよ」
珍しい体験ができる部屋を手に入れて面白がるように話し、留美はスマホ持ち上げてぐるっと部屋を一周、見せてくれた。
防音に改造されていると言っても見た目には普通で、単に窓が無い部屋みたいだった。

「ベッドは後で買いたいから、実家から持ってきた来客用のマットレスです」
床に広がったままのマットレスに、壁と同じ色の薄い肌色のシーツ。
ピンク色のタオルケットのような掛け布団は畳んで端に寄せてあった。

画面に映った感じだと、この部屋に今あるのは。
段ボールと小さめのカーペット。部屋の真ん中にテーブル。
壁際に小さめなテレビ台とテレビ。
テレビの反対側にはテーブルを挟んで二人掛けのソファー。
寝床はマットレス・シーツ・枕、掛け布団。枕元に小型のライト。
部屋の隅の衣類ハンガーに服が掛かってて、あとは小物入れのバケットが見えた。



衣類ハンガーには、ユウジくんから引越祝いに贈られたバスローブも掛かってて。
留美が風呂上がりに着たのかな、と思ってしまった。

他の生活雑貨は別の部屋に積んであるらしく。
「今度、間取り、全部みせてあげるね」
と言ってくれた。



「それと、これ」
留美が嬉しそうに掛け布団の影から引っ張り出した猫の「ぬいぐるみ」。

「ユーちゃんも一緒です」
両手ぐらいの大きさのふわふわのぬいぐるみを自分の顔にくっつけて。
スマホをセルフィーみたいに片手で持って、猫と一緒に僕を見た留美。

実家マンションで猫を飼うことができない留美の話を聞いて、前に僕が留美にプレゼントした猫のぬいぐるみ。
期待以上に喜んでくれて、大切にしてくれて。

そっか。持ってきてくれてたんだ、と嬉しくなった。

ほっぺにぬいぐるみをスリスリしながら、にゃーとニッコリした留美の顔を見て、僕がクスッと笑ったら。



チャイムが聞こえた。

防音のこの部屋でも来客が分かるようになっていて。

「ユウジくん、来たみたい」
スマホはテーブルに。猫は寝床に置いて。
留美は玄関へユウジくんを迎えに行った。

僕の画面には留美の部屋の天井が映っていた。
扉も閉めずに行ったので。
玄関のほうの音は聞くことができた。





◆ ◆ ◆



「んっ……んむ……。ん……」
天井のライトしか映っていない留美のスマホから。
留美の甘い声が遠く、小さく、聞こえた。

「待って待って、ンッ……んんッ」
近づいてくる足音と共に、留美の声も大きく聞こえてきた。

ドン、と壁を叩くような音が聞こえて。

「フぅん……ンッ……」
また、留美の声。
「録ってるの?……うンッ」

留美のスマホはテーブルに置かれたままで天井を映してる。
留美とユウジくんの行為はできるだけ録画する約束になっているから。
今、ユウジくんが自分のスマホで録っているようだった。

なにを録ってる?

「わかったから、わかったから、ね、あとで、勉強してか…ぁンむッ……!」
部屋のすぐそこまで来ている感じで。
留美の悶えている声が続く。

「終わったらできるから……、ね」
甘い声で留美がユウジくんをなだめている。

「はぁ……はぁ……」
留美の息と、服をパンパンと直すような音がして。

部屋へ入る直前に留美の声。
「また穿かないで来たの……? 今日は私、穿いてるからね」

留美とユウジくんが一緒に部屋へ入ってきた。



◆ ◆ ◆



「ユウジくん、座るのそこでいい?」
留美が促す声で平常に戻った。

留美のスマホが持ち上げられて画面が大きく揺れ、テーブルの端に置き直された。
スマホをスタンドに立てかけたようで、広がるテーブルとカメラ前に対面で座る留美とユウジくんが映りだした。
ユウジくんの格好は前回と同じような上下黒色のスウェットだった。

最初に留美がユウジくんに、
「だらしない格好で外歩かないの。勉強しやすい服とか何着か持ってきて置いといていいから。わかった?」
とお説教。ユウジくんは素直に、はい、と返事をしていた。



今日からユウジくんの受験勉強。
留美の家庭教師が始まる。

家庭教師をする曜日や時間帯は決まっていないけど。
およそ、平日の夕方と休みの日の日中。これらのどこか。

ユウジくんのお母さんと留美のお母さんは仲良く他のお母さん方とお付き合い。
不在の時間帯が多くなるのでメッセージをしておけば、夕食や祝祭日の食事も留美とユウジくんで食べてしまって構わない。

大学受験まであと一年足らず。
ユウジくんは頭が良いらしいので進学は安泰だけど、受ける大学次第では厳しいところもあるらしい。
進学塾にも通っているけど留美の家庭教師が決まったことで、今後の学力次第では増やしたり減らしたりするつもりらしい。

なんにせよ。
今日から大学合格まで。
ユウジくんの学力がアップして、無事、志望大学に合格することが、今のこの環境を続けられる条件といえる。



勉強の準備をしながら、留美とユウジくんが相談をして。
受験で結果を出さなきゃいけないので、余裕が出るまでは、勉強中の行為はお預けに決まった。

行為の今までのルールはそのままで。

ただ、受験の来春まではとても長い日数があるので、コトを焦らず、日によってはほんのちょっとずつでもいいかな、という話しに落ち着いた。
留美の言葉に真剣さがあったことと、ユウジくんは留美に異論をしないので、僕もそれを受け入れた。



今日の勉強する範囲を決めて。
留美とユウジくんは、参考書やノートを広げて勉強を開始。

僕もライブ通話を繋げっぱなしのまま、机に広げたままだった課題をやることにした。

僕の姿を見た留美が、僕の方を見て言った。
「また一緒に勉強できるのって、なんか、いいね」

僕と留美が大学受験をしたときに。
留美と一緒に勉強した感覚を思い出して、僕も嬉しくなって微笑んだ。



◆ ◆ ◆



集中していると時間はあっという間に過ぎて。
今日予定していた勉強の範囲は終了した。

留美とユウジくんは納得した勉強ができた様子で。
ユウジくんは筋が良く、また、留美の教え方も上手っぽくて。
留美の家庭教師は無事に成立したようだった。

僕も、ありがたいことに集中できて、課題はすんなりすすめられた。



勉強を終えて。
夕方からスタートして、あと少しすると夕飯という時刻になっていた。

今日の勉強は最初なので丁寧にやったようで。
夕飯どきで解散するなら、そんなに時間は余っていなかった。



ユウジくんが勉強道具をささっと片付けて。
留美が
「今日は最初だから、夕飯はちゃんと帰って食べて、お母さんに報告とかした方が良いよね」
と促すと、ユウジくんは残った時間で少しだけ話がしたいと言いだした。



「はい、どうぞ」
と言う留美に、ユウジくんはいくつか考えてきた事を喋りだした。

まず、いつもスマホ撮影だと置いたり操作したり大変なので、動画撮影用の動画カメラと三脚、机におけるスタンドとか化粧にも使えるライト、それらとパソコンを繋げる一式などが欲しいという事だった。

前もってパソコンで調べてあって、値段はそんなにしないので、どうですかと。
経費は全部が僕持ちだけど支払いは大丈夫なので、留美の通販の欲しいリストに登録しておいてくれれば今夜購入しておくと承諾した。

留美は
「そんなに本格的なの……?」
と顔を赤らめて、困惑した様子で可愛かった。

留美は、機械の使い方は自分は判らないしお母さんが来たときに怪しまれないように片付けとかしてねと不安げに強く頼むと、ユウジくんは了解した。



空気を読んだユウジくんが次の提案で、留美のことを先生と呼んでも良い?と茶化したら、それを聞いて笑ってしまった留美が、しまった!という顔をしながら
「先生の言うことをちゃんときくなら良いですよ」
と答え、ユウジくんは、はい、留美先生、と答えていた。



ユウジくんが、もうひとつ。次からの行為の内容を決めたい、と留美に言った。

これは僕も気になっていて。
勉強前に、ほんのちょっとずつしか進めない日もあるとは決まったけど、具体的な内容は聞いていなかった。

引っ越し前の抱き合ってのベロキスから。
次は何をするのか気になって仕方がなかった。

今、ユウジくんがこれを留美に言うと言うことは。
ベロキスの後、留美とユウジくんも今日まで内容は決めていなかったんだなと思った。



ユウジくんは留美をじっと見つめて、留美お姉ちゃんはなにがしたい?と質問した。
留美は思い悩む様子でなかなか言葉が出てこなかった。

少し無言の時間が過ぎてから、ユウジくんが案を出した。



今日の勉強前に決めたとおり、成績に影響が出るのは困るので。
進めていく行為はチョットずつで良いと思う。
でも、引っ越しの間のお預けで悶々とする気持ちがあったのも事実なので。
授業中にいくつかお願いを考えてきた、と。

「ちょっと。学校の授業、ちゃんと聞いてるの?」
留美が釘を刺した。

勿論やってるよ、とユウジくんが応えて続けた。

ひとつは、留美お姉ちゃんの写真を撮りたい。
普段着でもいいので写真が撮りたいと。

僕には意外だったけど、当然だとも思った。
僕は留美の日常の写真を撮ったり送り合ったりでそれなりに持っているけど、ユウジくんにはそれが無い。

ユウジくんにおねだりされるように重ねて頼まれ、留美は、
「モデルみたいにはできないよー? それでもいいならいいよ」
まんざらでもない感じの笑顔でOKした。



ふたつめは、僕と留美の話が聞きたいのだという。
僕たちの馴れそめとか、どんな付き合いをしているかとか。
そして。どうして今のこの性的な関係に至ったのか、とか。

ユウジくんにとって解らないことが多く、
興味が沸いてきたので勉強したい。教えて欲しいと。

ユウジくんに言葉巧みに、先生お願いしますと言われてしまい、
むー…とした顔で留美はスマホに映っている僕を見て、
「……そうだよね、……教えてもいいよね?」
と訊いてきた。

僕には拒否のしようがない。
ユウジくんに行為をお願いしているのは僕と留美なのだから。
話さずにいられるものでもない。
僕は承諾した。

留美は
「いいよ。なんでも教えてあげる」
そうこたえた。



ユウジくんは、次が最後だと言った。

「うん。なに?」
留美が訊いた。

ユウジくんのお願いは。
ハグ以上にもっと留美と触れ合いたい、だった。

女子の身体に触れるなんて今までなかったから経験したい。
留美に特別に教えて欲しいと言う、正直な、行為の具体案だった。




留美はしばらく喋らなくて。

防音の留美の部屋は凄く静かで。

留美の顔が明らかに赤くなって。

留美は僕を見て、ユウジくんを見て。
また僕を見て。

小声で。

「服の上からなら……いいよね?」
僕に尋ねた。

留美の目に魅入った僕は、色々浮かんだ妄想が真っ白になって。
それを了承した。



留美は弱い声でユウジくんに
「服の上からだけね……、いっぺんにはダメだからね。ちょっとずつだよ……」
そう返答すると、ユウジくんが、自分もちょっとずつ経験したいと合意した。



◆ ◆ ◆



ユウジくんの家の夕飯までに解散するなら、残りあと10分程度の頃合いで。
今日はこれでおわり、と思ったとき。

ユウジくんが、
「今日のぶんがしたい」と留美に言った。

まだ顔を赤らめたままの留美が
「え?」
と弱い声で驚くと。

ユウジくんは、さっき勉強してからって言ったよと優しい声で付け加えた。



言っていた。
たしかに部屋に入る前に留美がそう言っていた。



ユウジくんは留美に床からソファーへ移って座ってほしいとお願いした。

「でも、時間が」
留美がまごまごしていると、ユウジくんが、たぶんすぐ終わるからと更に促した。



「ほんとにするの?」
困惑しながらも留美はソファーに移動し静かに座り直した。

ユウジくんによってテーブルが少しずらされて。
テーブルの上の留美のスマホの位置が整えられて。
ソファーに座った留美の頭から膝下までがカメラに映りだした。



ぴちっと脚を揃え、両手を膝の上において行儀良く座る留美。
スマホの中の僕と面と向かって、顔を見合わせた。



そしてユウジくんがゆっくりと。
留美の右隣に腰を下ろした。

僕のパソコンの画面には、
右側に緊張したように固まって座る留美が見え、
左側に座ったユウジくんは、身体が一回り大きく、目は画面に入りきらずにあごから下が映っていた。



さっきまでのなごやかな雰囲気が一変して。

僕のほうを見て固まっている留美の膝上の両手に。
ユウジくんは自分の片手を重ね。
留美は横に座ったユウジくんのほうを向き、見つめ合った様子でつぶやいた。

「ちょっとだけだよ……」

留美の特別授業がはじまった。






Since Mar.22.2020 Copyright © "SOYOKAZEKAORI" ALL RIGHTS RESERVED.


メニュー

AI


MENU 2
MENU 3
------
リンクは soyo.pink へ張って頂けると幸いです。ご意見・ご感想はツイッター、または、ノクターンノベルズの当方投稿感想宛までお願い致します。